あのとき、突然大地が揺れて、倒壊の危険を感じ建物から外に出て、立っていられなくて、みなで這うように前の神社の中央に行き、うずくまった。
晴れていたのに、そのあと、急激に気温が下がり、雲が湧き、暗い雲の隙間から、雪が降ってきた。天変地異..だれかれともなく、そんな言葉がつぶやかれた。
いったん揺れが収まると、おのおのうずくまっていた人たちが、小雪舞う中、駆け足で、家に戻っていった。子供は、家族は、大丈夫だろうか。家はどうなっているだろうか。みんなの蒼白な顔が、今でも胸を突いて忘れられない。
その時は、大きな地震が起こったこと、それ以外に、何が起こったのか、わからなかった。
本当にかなしく、おそろしかったのは、そのあとから、始まった。
寒くて暗い記憶。
忘れたくても、忘れられない記憶。
それは、あれを体験した人々の心に、長く、今に至るまで、心に冷たい轍を引き続けている。
もう9年?いや、まだ9年・・・
歳月なんてものはそんなに単純じゃなく
あの時雪が降り積もった冷たい冷たい轍は
それから弱音も吐けず、黙々と営みを続けてきた人たちの、深い痛みが引き続けた轍となり
いまもなお続いている、ちっとも終わってなんかいない
まだ時なんか、全然来ちゃいないのに、立ち上がろうとあがくほど、ひとしれず、足が、胸が、痛む
降り積もる
降り積もる
雪降り積もる轍に、変わらぬ自然と、生きるものの温かさが降り積もる
降り積もる
降り積もる
霧が降り積もり
ぬくもりが降り積もり
あたたかさが降り積もり
これまで直視できなかった冷たい轍を
そっと振り返れたなと感じる日が、ひとしれず、増えてきているのを
否定も肯定もせず
大地が見ている
「ゆっくりでいい」
轍をのみこみ内包したものの強さとやさしさを、何千年と見てきた大地の声が聞こえてくる
やさしい霧に包まれて
今日のみんなが温かい寝床で、安らいで眠れますように
降り積もるやさしさが私たちの心を癒してくれますように
希望が潰えませんように